私は22歳の時、北海道警察初となるダイバーになった。
初仕事は、港に釣り道具を残して行方不明になった男性の捜索。港内は濁っており、視界2m、水深10mの海底は薄暗く、泥が堆積している。
岸壁から3m下の海面に飛び込む。指揮官にO Kの合図をし、潜り始めると急激に暗くなる。海底に手をつくと泥が舞い上がった。捜し始めて直ぐに、両手を握りしめたボクサースタイルでうつ伏せに沈んでいる男性を発見した。私は、任務を遂げる使命感と死を認める残念さ、「俺が家族の元へ帰してやる」というレスキューマンの心意気で頭の中がいっぱいだった。
男性を背中側から抱えて「いま、地上に戻してやるぞ」と心の中で話しかけていた。
水深5mに浮上した時、抱えている男性が突然
「ボヴェグぇべ@>※・ブェー#ェェー〜」と声を上げた。
『あっ!死体がしゃべった』
そう思った瞬間、心臓の鼓動が早まり、呼吸は荒く、レスキューマンの心意気は恐怖でいっぱいになった。
任務を達成した充実感を得ても、恐怖心が抜けないまま帰路についた。
空気は、水中に沈むと収縮し、浮上すると膨張する。つまり、あの声は男性の肺の中の空気が膨張した音だったのだ。その事に気が付いたのは後の話し。
未熟なレスキューマンの恥ずかしい思い出です。
記:北斗交番 所長 村上富一さん
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